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石ころの歌

<ものがたり>
 勇三はある山村の二男坊に生れた。家は専業農家で、なんとかやっていけるギリギリの所だったが、長男の栄一をのぞいては、勇三も司郎も、当然、家を出て行かなければならない宿命にあった。
 都会に出た勇三は、トラックの運送会社に職を得た。然し、彼の素晴らしい希望も、融通のきかない勇三にはかなえられなかった。都会の非情な人間関係にはみ出され、再び就職の希望もむなしく、失意を抱いて田舎に帰る。彼の憩う所は父母のいる故郷しかなかったのだ。
 この映画の物語はここから始まる。
 久しぶりに帰る故郷の山や川は、なつかしい思い出に満ち溢れていたが、今の勇三には砂を噛むような思い出ばかりだった。家に帰ってはみたものの、それは一時の安息所にしかならなかった。長兄の嫁もやっとの事で決まって、家の中はなんとなくはなやいでいたが、弟の司郎の高校入学の事は、なやみの種だった。
 そこへ勇三の突然の帰郷は、がんこな父、気弱な母、誠実な兄の心に少なからぬ波紋を投げかけた。厄介者のような存在になってしまった勇三の気持は、父の持って来た婿養子の話で、いっそういらだってしまう。
 勇三とて、いつまで我が家にいるつもりはない。自分の道は自分で切り開いてみると再び家を出るのだった。
 山奥の森林伐採場で、勇三はきびしい労働に立ち向った。高い賃金を貰えるという事で、無我夢中で飛び込んで来たのだ。金を貯めて自動車学校に入ることが、彼の労働に拍車をかけた。そして、山林労務者の命がけの仕事を通して自然と対決する人間の素朴で強靱な姿にうたれる。
 勇三が労働の意義を自分の体で知り始めた頃のある日、山育ちの青年茂の怪我を救うために、勇三は山を越えてダムエ事現場の診療所へ急報する。茂の怪我は事なきを得て、勇三がその看病をつとめるのだが、このダムエ事現場の数日間は、勇三にとって、大きな世界への導入であった。人間の生んだ科学の力が大自然に挑戦する素晴らしい集団を見たのだ。
 そして、それは小さな人間がもつ偉大な力への開眼であった。
 山の青年の看病のかたわら、勇三は土工仕事に自分の体をぶつける。石ころみたいな自分でも生きているんだ。石ころをつみあげて行く事、それが人間なのだ。勇三は生きる汗の尊さをしみじみと味わうのだった。茂の怪我も癒って、再び山へ茂の帰る日が近づいた頃、勇三にも希望の訪れる日が近づいていた。それは夢にも見たブルドーザーの運転手に採用される事であった。
 めまぐるしいこの社会で、自分を失った過去にピリオドをうち、今、勇三は大地にしっかり根をおろした自分を知った。その自信は、貯金した五千円を弟の高校入学のために送る事の余裕にもあらわれていた。
 希望に燃えて働く勇三の行く手に、たとえ大きな障害があっても、勇三はおそらくそれを乗り越えて、すばらしい成長をとげる事であろう。 


文部省特選

貯蓄増強中央委員会
英映画社
白黒62分

企画 高橋銀三郎
原作 鈴木政男
脚本監督 堀内甲
撮影 黒田清巳
照明 沖茂
音楽 間宮芳生
編集 河野秋和
録音 田中義造
効果 エフェクトマングループ
記録 城田孝子
撮影助手 宮下英一
助監督 長井貢
製作主任 桑原一雄
製作補佐 滝川正年
キャスト 堀勝之祐、清水一郎、本間文子、西島悌四郎、渡辺文雄金井大