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神々のふるさと・出雲神楽

出雲神楽は身体で描いた古事記
松川八洲雄(映画監督)

 語り部が代々言葉で伝えてきた日本人の歴史・“世界観”を、古事記は、墨を含ませた獣の毛の筆で中国の文字を借りて紙に書き残す「文明」の…試みであったとすれば、お神楽は、文字の代わりに身体行動とロうつしされてきた言葉、たとえば呪文のような…を用いて物語を伝えようとしたもの、といえるだろう。その場合、何者かの他者を真似る知恵は幸か不幸かまだ発見されず、なんとしてでも神なら神に、鹿なら鹿になりきらねばならなかった。他者を真似るのではなく、他者になる。これは近代演劇では至難のことである。ましてなるべき対象は…見たこともない、たとえば神。
 私は神だ、と思い込む。なかなかその事を信じられない。くり返し、私は神だ、と思い込もうとする。目をつむったり、面をかむったり、そうして思い込みを誘う動きをくり返す。笛は情動を誘い、太鼓は運動を引き出そうとリズムを刻むだろう。いい具合にむずむずしてきたぞ…などと考えると、つまり邪念が入るとダメになる。はじめからやり直す…。この繰り返しのうちに気分がよい方向に動き始めたら上昇気流に乗るトンビの要領で躰をふっとのせる…。酒はその飛翔を大いに助けたにちがいない。
 最初から他者(観客)に演じてみせる魂胆なぞは入り込む余裕はなかった。いや、むしろ“観客”の方が神になって神座と定めた「結界」に入り込む、というのがマツリの常道だったろう、すくなくとも奥飯石の“観客”はそうだった。そして観客は…なにをかくそう、力ミサマと区別がつかないときている…。
 …そのように出雲神楽には、凝視するならば日本人の信仰や、神や、魂や、言葉や、舞や、演劇や、もろもろの原初のヒミツを解くカギが、いまでもいっぱい、いきいきとしてつまっているように思えた。

優秀映画鑑賞会推薦
日本産業映画ビデオコンクール文部科学大臣賞
キネマ旬報文化映画ベスト・テン第1位
優秀映像教材選奨優秀作品賞

シリーズ <民俗芸能の心>
ポーラ伝統文化振興財団
英映画社
カラー41分

監修高橋秀雄
製作 宮下英一、内海穂高
脚本 菅野均
演出 松川八洲雄
撮影 小林治、小幡洋一
撮影助手 藤原千史、中山憲一
照明 前田基男、北沢保夫
録音 弦巻裕、松本修、南徳昭
選曲 山崎宏
ネガ整理 長沼ヨシコ
タイミング 三橋雅之
タイトル シネブレーン
録音 東京テレビセンター
現像 IMAGICA
語り 北村昌子
協力 佐太神社
佐陀神能保存会
鹿島町教育委員会
鹿島町立歴史民俗資料館
見々久神楽保持者会
有福神楽保持者会
奥飯石神職神楽保持者会
島根県教育庁
島根県古代文化センター
島根県立博物館