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にんぎょう

<解説>
 土で焼いた器を発明した時代から人間の暮らしは一変します。そして、土器と一緒に何気なく作った土のひとがたを火にくべました。モノを入れる入れ物と、身体やこころにまつわるもろもろの不安や災いを移すことのできるこころの入れ物。そのこころの入れ物のさまざまをこれから見てみましよう。
 寝ている間に子供のたましいが飛び去らないようにと、親たちが作った天児 (あまがつ)や這子(ほうこ)と呼ばれる人形、女の子の成長を祝う雛祭り、京の都で生まれた御所人形。これら人形を生み出す職人は正にたましいを扱っていたのです。人形の産地、岩槻市に住む石川潤平さんもその一人です。その職人芸が花開く江戸時代。
 人形を動かしたいという欲求も生まれます。首を振る童子や文楽人形。動かすだけでなく、命を、たましいを…………。
 京都で育まれた文明とともに、人形も日本全国に行き渡ります。人形は遠い都の情報でもあったのです。一方、700年ほど前から皇族の姫君が代々出家入山されている尼寺、京都の宝鏡寺には、幼い姫君が肌身離さなかった人形が今も残っています。人形の住む人形寺。
 市橋とし子さん(1907年〜)は古い因習の中で苦労されながら、新しい女性像を人形に託します。素足の、しっかりと前を見る女性たち。「知秋」「草の上」 「風薰る」「無想」そして「愛」。
 野ロ園生さん(1907年〜)は江戸時代の香りをいまもなお見続けています。「はつなり」「雨月」「師走」そして「日々安穏」とその世界にするりと滑り込んでしまいます。
 小椋久太郎さんは、もう80年近くこけしを作り続けています。お椀や木の鉢を作っていた木地職人が明治に入ってから作り出した新しい郷土人形、木そのもののこけし。
 こうした人形は人のひながたの形した神、たましいの入れ物、人間の素晴らしい発明品なのです。

映画の空間と時間
映画監督 松川八洲雄

動かない人形が、はたしてムービー(動くイメージ=映画)になるものでしょうか。 人形は、少なくとも3つの空間と時間を持っています。そのことに気が付いたときこの難問は解けたのです。すなわち、
①展覧会、もしくは応接間の空間と時間。②アトリエ、もしくは仕事場の空間と時間。③その人形のイメージする空間と時間、の3つです。野ロ園生さんの人形『雨月』、市橋とし子さんの『草の上』を例にとりましょうか。
それぞれが展覧会場におかれているときは、その空間の人々のいる等身大の日常の空間と時間にほかなりません。つまりあたりまえの空間と時間、①の空間と時間です。
さてその中で近寄ってシゲシゲと眺めます。一体作者はなにをどう思って作ったのかしら......。

文部省選定
優秀映画鑑賞会推薦

シリーズ <伝統工芸の名匠>
ポーラ伝統文化振興財団
英映画社
カラー34分

監修 北村哲郎
協力 野ロ園生[衣裳人形](重要無形文化財保持者)
市橋とし子[桐塑人形](重要無形文化財保持者)
文化庁
東京国立博物館
国立文楽劇場
東京都 埋蔵文化財センター
山梨 釈迦堂遺跡博物館
和歌山 淡島神社
青森 恐山
弘前 久渡寺
埼玉 笛畝人形記念美術館
岩槻 人形歴史館
京都 宝鏡寺
石川潤平
小椋久太郎
桐竹一暢
大藤晶子
大森邦
音羽菊七
神成澪
上林アイ子
後藤静夫
田中秀代
宮本又左衛門
渡部直哉
製作 宮下英一
脚本演出 松川八洲雄
撮影 小林治
照明 前田基男
音楽 間宮芳生
ナレーター 花形恵子
演出助手 長井和久、彦坂宣明、中村元
ネガ整理 川岸喜美枝
録音 東京テレビセンター
現像 IMAGICA