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文子の日記

<あらすじ>
 大黒屋豆腐店の主人木村好造は、無一物から今の店を作り上げた苦労人、しかも無類のお人よしである。困った人があれば何とか面倒を見なければ気がすまないし、小さい子どもが危い遊びなどをしていれば、黙って見ている事ができない。
 店の仕事は好造と妻の民子、それに10年も前から住込みで働いている勇次の三人でやっているが、好造は勇次の世話も勿論、熱心に見ている。好造には民子との間に、高校3年で受験勉強に忙しい長男の和男と、中学3年の文子、そして小学校4年の健太と、3人の子どもがある。
 幼い健太はまだ素両に父の人のよさをそのまま受入れて、病気で痕たきりの子どもを慰さめたりしているが、文子と和男はお人よしの父が頼りなく不満である。ことに文子はラッパを鳴らして行商する父の姿が恥かしぐ、 父がサラリーマンならどんなに良いだろうと思っている。
 そんな文子だが、ある日好造がいつも面倒を見ている病人の隆吉の所へ、父にかわって豆腐を届けに行った際、心から父に感謝する降吉の姿に接して、改めて父を見直すのだった。そして又、それをきっかけに、母から店を築き上げた両親の苦労や、働く事に対する母の考え方などを聞いて、深く考えるようになる。
 和男は吉村と言う1人の青年に食事をさせたり、金を貸してやったりして世話をしている父を見てまっこうから批判する。吉村は以前店に住込みで働いていた事があったが、今はとび出してぐれている男なのだ。 しかも何度も父はだまされてお金をまき上げられているのである。
 『……あんな奴、刑務所へぶち込んでやりゃいいんだ』
 その一言で、今まで一度も大声さえ出した事のない好造が大声で、『ばかやろう!』と、 どなりつけた。
 『よく考えてみな、自分の事しか考えられないような、了見のせまい奴は、大嫌いだ』
 『何度だまきれりゃ気がつくんだ』
 和男も負けずに言返すが、お互いに白け切った、嫌な気持である。
 だが結局吉村は、和男の言う通りその後音信不通、また好造はだまされたのである。
 そんなある日、勇次は10年間こつこつ蓄えたお金を資本に、新しい豆腐屋の店を開く事になった。きれいなお嫁さんも貰って幸せそうな勇次を、好造は心から祝福してやるのだった。
 和男は、人手の足りなくなった店の仕事を自分から進んで手伝ったりしているか、ある晩、両親が自分のための学資を、こつこつ積立ててくれているのを発見し感動する。何日かが過ぎた。
 和男は豆腐の配達に出た途中、繁華街であやし気な連中と一緒に居る吉村を見かけた。彼は、勇気を出して吉村に父の所へ帰るように説得する。結果は和男がひどい目に会うが、家に帰った和男は父にもう一度吉村に会って話してみようと言う。 好造も民子も、和男がいつの間にか自分たちの心を受けついで、成人していく姿がうれしくて仕方がない。
 今朝もまた、子どもたちは元気にランニングに出かける。
 『あいつらだけが、かけがえのない財産だ』
 好造夫婦は、子どもたちが元気にすぐすぐ育っていく事に感謝しながら、豆腐作りに精を出すのである。 


文部省特選
文部大臣第3回青少年映画賞
教育映画祭最高賞

貯蓄増強中央委員会
英映画社
白黒63分

企画・製作 高橋銀三郎
脚本 松本英二郎、長井博
演出 青山通春
撮影 前田実
照明 菱沼誉吉
音楽 真鍋理一郎
編集 中尾すみ子
記録 山崎慎子
演出助手 田上弘
撮影助手 高岩震、長井貢
照明助手 森礼路
録音 アオイスタジオ
現像 東洋現像所
出演 桑山正一、真木小苗、江沢信行、青柳直美、大塚治虫、和沢昌治戸川暁子、金親保雄、宮本満里子、祖父江文宏、菅野直行、新倉文男、山田人志、小池修一